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乱馬たちが沐絲のビルでお茶を仲良く飲んでいる頃。
中国山岳部、女傑族の村。
他の家より少し豪華なつくりの家に、村の者達は集まっていた。
周りから聞こえる、すすり泣く声。
たった今、この村の一番の長寿の老婆が亡くなった。
「ひぃばぁちゃん…」
一際特徴のあるイントネーションで、藤色の流れるような髪を携えた美しい女性が呟く。
珊璞、彼女の名前であり、数年前までは煩いほどにとある男が紡いでいた単語である。
「ひぃばぁちゃん、私、この村の長やっていける自信、ないね」
村最強の女がこの村の長になるのが決まり。
誰が疑うことなく村最強であった珊璞が長に選ばれた。
だが、長になるには、たった一つ、条件が加算されるのであり、彼女には、心に決めていたそのたった一つの条件が、消えていた。
自分から、言おうと思っていたのだ。
乱馬が結婚し、あかねが彼の子供を身ごもり、全てに諦めがついていた。
だが、元来負けず嫌いな性格である珊璞は、幼馴染である男に乱馬とは違うほんのりと温かい気持ちを、認めたくなかった。
彼が、熱心に愛を求めてくれば、求めてくるほど。
だから、あの日、いつものように彼から結婚してくれと申し込まれて、断ったのだ。
次の日に、珊璞の方から、「愛している、結婚して欲しい」と。
言おうと思っていたのだ。
そして、その日、男は村から出て行った。
数日前からこの村に迷い込んだ、美しい娘を連れて。
村を、家族を、珊璞を。
捨てて出て行ってしまったのだ。
ただ、目の前が真っ暗になって、その場に膝を、つけるしかなかった。
「ひぃばぁちゃん」
棺に眠る、どこか可愛らしい顔をした老婆に、珊璞はなおも語りかける。
「ひぃばぁちゃん、私…」
沐絲を、愛してるね。
「探しに行っても、いいあるか?」
ぽつり、と老婆の顔に一粒の雫がのり、つぅと流れていく。
珊璞は、可論が笑ったように見えた。
まったく、お前は馬鹿な女だと。
そう、言われたと、珊璞は感じた。
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どろどろ、大好きv
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