「兄ちゃん」
「・・・・・」
「ねぇ、兄ちゃんったら!」
ただ、黙っているだけで、うつろな目つきで虚空をみつめている兄を、弟はこちらに注意を向けさせようと必死だった。
それは、突然のことであった。
両親が遺してくれた家で何不自由なくその兄弟は暮らしていた。
早いうちに両親が他界してしまい、弟の方は僅か一歳でただ一人の肉親である兄に育てられることになった。
兄は優しく、聡明で、美しく。
弟は兄を尊敬し、誰よりも愛した。
事件がおきたのは、ニ・三ヶ月前だった。
黒服の男達が、2人の家に押し入ってきた。
ドタドタ、ガターンと、酷い音が家中に響く。
「な、なに?」
「・・・・」
普段は柔らかい目つきで弟を優しくみつめている兄の瞳が、突如鋭く細まる。
黒服の一人が、兄に詰め寄る。
「一緒に、来てもらおうか」
「どういうことだ、もう金は全部払ったはずだ」
「・・・上の命令でね、悪いがこの家は押さえさせてもらう」
「そんな・・・!!」
小さな弟は、何が起こっているのかわからずに、兄に問いかける。
「兄ちゃん・・・?」
「そんな・・・・話が違う!
上に会わせろ!」
「駄目な話だな」
「何が駄目な・・・・ぐぅっ!」
「兄ちゃん!」
黒服に両腕を後ろ手に押さえられ、腹を殴られる兄。
「航、来ちゃ駄目だ!」
黒服に飛び掛ろうとした弟を、兄は鋭く制した。
「にいちゃ・・・」
「弟が、居たな、そういえば」
「っ!航に、航に手を出すな!」
「そうだな・・・・俺はそっちのガキはまだ若すぎる」
「・・・・・・まさかっ」
「悪いな、どうしても抵抗するようならちょっとお仕置きして来いって言われてるんだ」
「な・・・航、あっちへ行ってろ!」
「おぉ~っと」
兄の言いつけを守ろうと駆け出した弟を黒服が抑える。
「離せ!兄ちゃん、助けて!」
「航、航っ!」
必死に身をよじり、黒服から弟を助け出そうとするも、力の差がありすぎて、兄にはどうしようもなった。
「ぐぅっ!」
一層腕を捻りあげられ、兄は悲痛に満ちた声をもらす。
「好みなんだよな、お前・・・・」
「なっ、やめ・・・止めてくれ!
なんでもする!なんでもするからそれだけは!」
弟の前でそれだけは。
兄の叫びもむなしく、黒服は彼の唇を奪った。
弟の目の前で。
弟は、一体何が起こったのかわからなかった。
まだ小さすぎたから。
ただ、甘く、悲痛な声を漏らす兄を助けようと必死だった。
だが、気付いたら病院だった。
あまりのことに、小さな彼の脳は気絶を命じたらしい。
病院のベッドに横たわる兄の流す涙を見て、自分もなくことしか出来なかった。
「ねぇ、兄ちゃんったら」
「・・・めんな」
「え?」
「ゴメンな・・・・ははっ、ははははははは!」
笑い声が、虚空に響く。
それからのことだった。
兄は魔法にのめりこみ、弟は他人に心を開かなくなった。
中途半端。
さて、アルバイトに行ってきます。
続きは書くのだろうか・・・・。
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