湯気が立ち上る中、小島空は上機嫌に口を開いた。
「ココはニューハーフ禁制だぞ~」
ふふん、ふふんふん、と鼻歌交じりにさも気持ちよさげに熱レーザーで作った自家製露天風呂につかりながら。
「あら、こんな奥まった所に露天風呂があるんですもの。
気になって・・・・・・・。
何で解った」
「それはな、俺が先生だからだ。
先生は何でも知ってなくてはいかん」
それをきいて、百華は鼻を鳴らす。
もとから、彼女、いや彼はこの湯に浸かっている茶色い髪を綺麗に伸ばした教師を信頼してはいなかったのだが、ここまできな臭い人物だとまでは思っていなかった。
それも、振り向きもしないで気配だけで誰が来たのか解ってしまったのだから。
ばれているなら、何を気にする必要があるものか、と工藤百華は服を脱いで小島空と一緒の湯に浸かる。
彼には、空に問いただしたいことがあった。
「石田隊長と、寝てるって本当か?」
「ん~、咲良はなぁ、他の子たちと違って一段と寂しがりでな。
毎日一緒に寝てるぞ。じゃないと一晩中泣き明かすからな」
「そっちじゃない」
「・・・・・」
呆れながら言う百華を、空は薄ら笑いを浮かべて覗き込む。
百華の女性的な胸を見ても、たじろぎもしないし、下腹部に男性の名残があるものを見ても何も言わない。
ただ、また百華が話し出すのを待っている。
「セックス、してるのかと、聞いているんだ」
「聞いて、もしソレが本当だったらどうする。俺を軍上層部にタレこむか?
あぁ、俺は教師だからな。PTAか?教育委員会?」
楽しそうにくつくつと喉と身体を揺らして、空は笑う。
本当に楽しそうで、だけど、目だけは笑っていない。
百華はこうゆう目を嫌というほど見てきた。否、向けられ続けていた。
実験体として。獲物として。
だが、この空という男の目はまた違った何かを感じさせる。
「別に。ただレーザーをお前に向かってぶっ放すだけだ」
「おお、最近の子は恐いな」
「誤魔化すな。どうせ本当のことなんだろう。
情報の元はあの岩崎だ、99%真実だ」
「ん~・・・・・・、本当、最近の子は恐い。
岩崎にはお仕置きが必要だなぁ、人の情事は見るものじゃない」
「・・・・・・・・・・遊んでいるのか、お前は」
「とんでもない!」
ざばぁっと勢いよく音と水しぶきをたて、空は立ち上がる。
そのまま惜しげもなくその美しい裸体を百華の目の前にさらけ出す。
「遊ぶなんて!遊びで人を愛せる物か!
まして、娘だぞ!ああ、何て愛しい俺の咲良!」
ザバザバと、大股で百華の横を通り過ぎて白い雪の上に足を乗せる。
腰までのびた綺麗な髪が、背景の闇と雪に良く映えた。
両手を広げ、恍惚とした表情で語る。
芝居がかった仕草で。
「どの世界を探しても、妻よりいい女は、美しい女は、愛しい女はいないと思っていた!
いや、思っている。今はどこに閉じ込められているだろうか知れない、我妻、Tagami!
愛していると最後に告げられて、幾年たっただろうか・・・・・。
寂しさに震え、悲しみに打ちひしがれ、絶望に染められ、だがしかし、この世界に真っ向から闘いを挑むこの戦慄の楽しいこと!
収まることを知らない、娘達への愛情・・・・・」
その後も意気揚々と意味のわからない言葉を並べる空に、百華はついに切れた。
一線の白い光が奔った。
「・・・・・・あまり、使うな。身体に悪い」
「・・・・・」
ぐったりとして顔半分を湯に沈めてしまっている百華を助け起こした空は無傷であり、彼は唇を噛んだ。
「そうだな、話がそれたな。
ああ、俺は咲良を抱いている。だがしかし、俺は俺ではあるが、小島空ではない。
身体は小島空であっても、俺は違う。中身が、な。
そうすると、不思議な物で、こっちが完璧にこなしていると思っても、ひょんなことでミスをしてしまっていることがある。
そのいい例が、俺だ。いや、小島空だ。
空は、一人の男として石田咲良を愛している」
「わけ、わからねぇよ」
「結論から言うと、制御し切れていないのが現状だ。
俺は、娘を抱いたのは咲良が初めてだ。だが、俺の意思じゃない」
「・・・・・・・あんた、何者だ」
「ん~~~・・・・?ただの変人・奇人の代表で、しがない数学教師だぞ」
空は笑って百華の身体を拭き、服を着せた。
「今日はもう帰れ、あとこのことを人にしゃべろうと思うなよ。
生徒にはいなくなって欲しくないんだ。
俺は教師だ、生徒がいないと失業する」
「・・・・・・・」
無言で去っていく百華の姿が見えなくなった頃、空はまた湯に使って林に向かって話しかけた。
「そう硬くなるなよ、俺は普通に咲良を娘としてみているぞ?」
「制御、仕切れてないんじゃなかったのか、A」
「そうそう、小島空がいけないんだぞ」
「アンタほどの人が、ただの人間一人を制御できないわけが無い」
「勘ぐると、痛い目見るぞ、岩崎」
「見てやるさ」
林から出てきた灰色髪の痩身の少年は、百華がやったのと同じように服を脱いで空の隣に腰を落ち着ける。
「でも今は、空先生と2人っきりで雪見露天風呂を楽しむことにしたいんだよ、うん」
「そうかそうか。
俺も生徒との楽しい思い出が出来て嬉しいよ」
湯気が、立ち上り、2人の男の姿をぼやかした。
要はAであるユーリが咲良を抱いてるんじゃなくて、小島空の元来の人格が咲良を抱きたい衝動に駆られて、Aはそれを面白がって実行に移しちゃってるだけ、みたいな。
イミフな話で申し訳ないです。
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